人と信頼関係を築くことは一朝一夕(いっちょういっせき)にはいきません。
時間をかけるだけではなかなか距離が縮まらなかったり、かえって距離を広げてしまうこともあります。
本人同士でも大変ですが、子どもを介してになると更に色々な問題が出てきます。
そんな問題を、協力し合いながら徐々に信頼を得ていった先生たちを紹介します。
入園
入園の際は個々に面談をし、子どもの様子や性格・成長段階・家での接し方や保護者の考え方など、保育園で過ごすために必要なことを細かく聞いていきます。
特に0歳児の場合は、他の月齢の子供と聞くポイントも違いますし、内容もより細かいところまで聞いていきます。
特に食事面では、ミルクか母乳か・量はどれくらいか・時間はどれくらいあけているのか・離乳食の段階は等聞くことがたくさんあります。
ある年に入ってきた子が、更にそれよりも細かい聞き取りが必要になりました。
その子の場合はお母さんが生まれつき全盲の方でした。
通いの仕事を始めたいが、互いのご両親のような、子供を見てくれる人がいなかったため保育園に入れることにしたそうです。
家では母乳のみだったそうですが、家庭での搾乳や保管の手間がかかるということで、園ではミルクを与えることになりました。
お母さんは、自分自身の事は不自由なくできる方だったので、登降園や荷物の支度等は問題なくやってくれていました。
ただ、ミルクだけはなかなか進まないようで、園で飲む量も思うように増えてはいきませんでした。
哺乳瓶の乳首を変えてみたり、違うメーカーのミルクを試してみたり、スプーンで与えてみるなど、家庭や園でも色々な方法伝え合いながら試していきましたが、やはりほとんど飲んではくれませんでした。
次第に、家庭でミルクを与えてくれる時間はほぼ無くなり、母乳のみになっていってしまいました。ただ、母乳の方もお母さんの言うところだと、ほぼ飲んでいる様子はなかったそうです。
当然、体の成長もほかの子に比べ遅くなってしまい、気がつくと数か月も下の子よりも一回りほど小さくなっていました。
離乳食
数か月たったころ、給食を始めて欲しいという話がありました。
月齢的には問題なく、園の方も栄養接収の観点から早めに始めた方がいいと感じていましたので、早々に家庭の方との打ち合わせを行いました。
通常給食を始める際は、主に使用する食材をリストアップしたチェック表を渡し、まずは家庭で試してもらうのが一般的な進め方になります。
その時も、給食を始める日までに食材を試してもらうよう伝えてありました。
ところが実際には、家庭での食材チェックはほとんど進んでいませんでした。ミルク同様、ほとんどの食べ物を受け付けようとしなかったそうです。
結果お母さんは母乳を与え続けていたそうです。
園としても、一度も試していない食材をいきなり与えるわけにもいかず、なかなか給食を始めることができませんでした。
その様な事情を伝えても、お母さんの方は手がかかることはすべて園で進めて欲しいと思っていたそうで、こちらから出す食事の与え方や調理の仕方の工夫などの提案も、まるで聞き入れようとはしませんでした。
自分の意見を組んでくれるクリニックの方から、給食開始を要求する書面まで書いてもらってくるなど、園とお母さんとの信頼関係は最悪になっていました。
腐ることなく
先生たちがまず考えたことは、「大切なのは子供の命を守ること」と言うことでした。
家でも園でも食事が与えられないならば、一番つらい思いをするのは子供ではないか。そこからどうしていくべきかを考えていきました。
そのため、まずは条件付きで食事(給食とは違ったもの)を始めていきました。
その子が試してある食材だけを使う・数種類の違った出汁を使って好みの味を探す・マンツーマンで食事介助につき、食べさせ方や声の掛け方を試す等色々な工夫をして、どうにかその子が生きていけるような保育を続けていきました。
お母さんだけでなく、お父さんも定期的に面談に来てもらい、食材の大きさ・味のつけ方・介助の仕方等、試してみてその時に一番良かった方法などを細かく伝え、レシピなどを記したものを渡すようにしていきました。
その後も、都合をつけて面談に来なかったり、家での食材チェックをなかなか進めてくれなかったり等ありました。
それでも先生たちが繰り返し丁寧に説明をしたり、時間を取って実践している所を見せるなどして、腐らず親身になって応対していってくれました。
その結果、少しづつ食事の量も増えていき、ミルクも飲めるようになっていきました。
体重も月齢に合ったぎりぎりのところまで戻ってきていました。
すると、次第にお母さんも先生たちのアドバイスを聞き入れ始め、いろいろ質問もしてくれるようになってきました。
家庭での食事はまだ大変そうですが、お母さん自身も、自分で育てるという自覚が出てきたそうで、以前よりも表情も明るくなってきていました。
今もその家庭は退園せずに通い続けてくれていますし、その子は自分から食事もするし、おかわりまでするようになり、ほかの子たちと同じように成長しています。
hldejow著